実際には、クレヨンもニコルのTシャツもケンゾーのセーターも手に入れることはできなかった。それらの本物は、十七歳の娘などに決して手の届かない聖域にあった。クレヨンは、ロンドンの「ビバ」という名のブティックに、ケンゾーはパリに、そしてニコルは青山に。私にとってそこは、行くことも見ることもできない、遠い場所だった。青山や原宿ですら当時は本当に大人の、それも特別におしゃれな人々のためだけの街だったのである。一度だけ、出かけて行ったことがある。明日行くと決めた土曜日の夜、私は手帖に道順を細かく描きこんで計画を立てた。着ていく服も、何度も鏡の前でチェックした。おこづかいをためてやっと買った一番のおしゃれ服は、前をボタンで留めるタイプのベルボトムのジーンズである。ポックリした厚底の靴は少し前に、学校にもはいて行くからと親にねだって買ってもらった。ニコルではないTシャツ、太さの足りないベルトは仕方なかった。